運命のカバンに出会う

僕が4月ごろに探していたカバン、それは「見た目も使用感も軽やかで、かつ耐久性もある生地を使っており、かつハンドル部分が幅広のショルダーバッグ」でした。

こんなものがあるのかと思って探していたんですが、まあ見事に見つからない。「値段は問わない!」と楽天やヤフー、ゾゾタウンなどで「価格の高い順」に並べたりもしましたが、高すぎるカバンは得てして革製なので軽やかさとはかけ離れています。

そんなとき、インスタグラムでとんでもない写真が流れてきたのです。

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前々から気になっていたブランドの、よく行くお店の別注カラーの商品でした。なんだか只者ではない雰囲気を醸し出しているし、色も大好きな茶色だし、とにかく気になる。

お店に電話をかけて在庫を確認。すぐさま実物を見に行ったのですが、もういろいろどストライクすぎて即購入しました。

以下ではこのカバンの素晴らしさについて延々と書きたいと思います。

シンプルなのに、狂ってるカバン

mittanというブランド

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まずはブランドの紹介からしましょう。ブランド名は「mittan(ミタン、ミッタンとも)」

「世界に遺る衣服や生地にまつわる歴史を元に、現代の民族服を提案してい」るブランドで、日本・インド・ラオス・中国などのマニアックな生地をマニアックな染色とパターンで洋服に仕立て上げています。

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ブランドを代表する製品が「はんてんジャケット」「はんてんコート」。名前通り日本の民族服ともいえる「はんてん」をデザインも基礎としていて、袖を細くしたり、生地とパターンでラインをスッキリみせたりして、現代的に仕上げたアウターです。

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面白い製品が多いmittanですが、僕が特に気に入っているのは「ガラ紡」という生地を使ったジャケットやコートです。

これについてはまた今度たっぷり書きたいと思いますが、とにかく酔狂な生地であり、酔狂なジャケット、コートです。

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「カディシャツ」というシャツも素敵です。「カディ」というのはインドの手紡ぎ・手織りの生地。手間はめちゃくちゃかかりますが、とても柔らかいうえに通気性がよく(手織りなので密度が低い)、素肌に着ると最高に気持ちいいです。

こんな素敵な製品ばかり作っているmittanというブランドが、心斎橋は「大阪農林会館ビル」にあるwalls&bridgeというセレクトショップとコラボして作ったのが、僕にとっての「運命のカバン」だったのです。

以下ではこのカバンの「シンプルなところ」と「狂ってるところ」を4つずつ紹介します。シンプルだからこそ研ぎ澄まされた挙句、ナナメウエの方向に突き抜けてしまったこのカバン(品番:BA-03C)の魅力をご覧あれ。

シンプル1:立方体に近い飾らない外見

普通のカバンって、直方体のものが多いんですが、このカバンは底が正方形で、全体的に立方体っぽい形になっています。

手に持ったりすれば直線的なラインは崩れますが、この潔い形がシンプルでグッドなうえに、あんまりない形ということで、僕のツボにブスリと刺さりました。

シンプル2:ハンドルが1つしかない

袈裟掛けを想定していないショルダーバッグって、ハンドルが2つあるものが一般的だと思います。

でもBA-03Cのハンドルは1つだけ。「使いにくいのでは?」と言われることもありますが、とんでもない。ハンドルが1つだということは、「2つをまとめて持つ」という手間が省けるんですよ。

これが使ってみるとめちゃくちゃ楽で「最高やな、おい…」ってなりました。見た目も使い勝手もシンプルなんです。

シンプル3:内ポケットが1つだけ

BA-03Cは内寸幅25*高33*奥行25cmとそこそこ収納力がありますが、仕切りらしい仕切りはありません。

あるのは内ポケットが1つだけ。「中に全部ぶち込んじゃえばOK」というシンプルなコンセプトがどストライクです。

シンプル4:柔らかくて軽い、コットン生地

生地は「コットンタイプライター」と呼ばれる、細い糸で高密度に織られたコットン素材。本来は「タイプライターの紙の代わりにも使える」と言われるくらいハリのある生地ですが、製作段階で洗いをかけてあるのでとってもやわらかくなっています。

またコットンタイプライターは比較的薄い生地なので、帆布や軍用ナイロン、革のような重さもありません。僕が求めていた軽やかさを備えた素材なのです。

ただここまでなら単なるシンプルなカバンです。耐久性の面でも心もとない。しかしmittanの真価はここから先の「狂ってるところ」にあります。

狂ってる1:染色が狂ってる

まず染色にアホほど手間がかかっています。mittanの製品の多くは草木染めという植物の色素を利用した染色方法で染められています。

BA-03Cもその例に漏れず、藍やくるみで染められているのですが、今回僕が購入したwalls&bridgeの別注モデルはもう一手間かかっています。

くるみ染というのは、薄いベージュにしか染まらないのですが、店主が「もうちょっと濃くしたい」と発注したところ、「鉄媒染・重ね染」という工程を入れることになったのだそうです。

媒染というのは草木染めの工程の一つで、植物の色素を繊維にしっかり定着させるためのものです。

草木染めをする際、特別この媒染を施さなくても繊維は染まります。しかし媒染を施すことで色の堅牢性(洗濯しても落ちにくい)が高まる、色が鮮やかになる「発色効果」が高まるといったメリットが得られます。

昔はアルミなどを含む灰や鉄などを含む土が「媒染剤」として使われていましたが、現在は「アルミ媒染剤(焼きみょうばん・生みょうばん)」「銅媒染剤(酢酸銅・硫酸銅)」「鉄媒染剤(木酢酸鉄・酢酸第一鉄)」が使われるようになっています。

このうち灰色系・茶色系になりやすいのが「鉄媒染剤(木酢酸鉄・酢酸第一鉄)」です。くるみの色はベージュ。ここに鉄媒染で灰と茶が混ざるので、少しくすんだような茶色に仕上がるというわけです。

ただBA-03Cの別注品はここで終わりません。同じ染色工程をもう一回繰り返し、さらに色を濃くしています。結果、かなり渋い茶色い生地に仕上がっています。

狂ってる2:生地の量が狂ってる

先ほど「コットンタイプライターでは耐久性が心もとない」と書きましたが、BA-03Cにその心配は無用です。なぜならこのカバン、生地の量が半端じゃないからです。

というのもBA-03Cは、ボディ部分にはコットンタイプライター生地を「8枚」重ねて作っており、破れても破れてもまだ先があるという仕様になっています。

しかもmittanは破れたり壊れたりしても、お店に持っていけばアジのある方法で有償補修してくれるというシステムを採用しています。デザイナーの三谷さんの所持品を見せてもらいましたがめちゃくちゃかっこよかったです。

ハンドル部分はもっと狂っています。ボデイ部分の8枚を二つに折ってハンドルにしているので、8×2=16枚の生地が折り重なっています。もう訳がわからない。壊れようがない。

この結果、BA-03Cはコットンタイプライターの軽やかさを維持しながら、凄まじい耐久性を実現しているのです。最高すぎるな。

狂ってる3:生地の裁断が狂ってる

普通の服飾品の生地は、基本的に刃物で裁断されています。これにミシンで縫製を施してほつれないようにするわけですが、BA-03Cの生地は刃物で裁断されていません。

じゃあ何で裁断しているのかということですが、このカバンの生地に関しては裁断という言葉はいまいちあてはまりません。なぜならBA-03Cの生地は「裂かれている」からです。

お店のマスターにお話を聞いたところ、どうやらこれは手作業で裂いたものとのこと。ここでもまた機械での作業に比べて手間をかけています。

しかし生地を「切らず」に「裂く」ことで、生地の断面はより複雑になります。しかもBA-03Cは8枚も生地を重ねているので、その断面は「生々しい」と言ってもいいほど表情豊かです。

このカバンはリバーシブル仕様で、表も裏も使っていいようになっていますが、僕はこの断面を堪能したいので裏返しで使っています。

狂ってる4:縫製が狂ってる

僕がBA-03Cで一番気に入っているのが縫製です。これは本当に狂気じみている。

まずボディ部分。普通のカバンなら1列だけ縫うシングルステッチか、2列縫って補強するダブルステッチですが、BA-03Cは4列縫うクワトロステッチ(?)が採用されています。さらに物を出し入れする口の部分には8列ものステッチが入っています。もうめちゃくちゃ強い。

次に底部分。正方形の辺に沿って中心へぐるぐるとステッチが入っています。底は擦れる機会も多いので、それをカバーするための補強の意味があるのだと思うのですが、仕事が細かすぎてちょっと引きます

またステッチが醸し出す無骨さが、コットンタイプライターの繊細な生地感といい組み合わせで、デザイン的にも素敵です。

もっとやばいのがハンドル部分です。これでもかというほどステッチが入っており、どう頑張ってもちぎれそうにありません。ハンドルがついている部分にもジグザグに補強ステッチが入っているので、ブンブン振り回してもビクともしません。

ちなみにこのハンドル部分のステッチを施すとき、ミシンから煙が出たのだそうです。何事かと見てみるとミシンの針が真っ赤に色づいていたのだとか。

前述したようにハンドル部分は16枚の生地が重なっているので、針にはものすごい摩擦が発生します。これを高速で縫い続けるので針が熱されて赤くなり、その熱で煙が出たのです。

思わず「ば、馬鹿じゃねえの!?」と言いたくなるエピソードではないでしょうか。いやもうほんと狂ってるんですよ、このカバン。最高です。

このカバンみたいに、ナナメウエに突き抜けたい

こういうカバンとか、こういう工夫を凝らした服飾品の存在を知らないと、「そこにこだわるの!?」と思うのではないでしょうか。まさにナナメウエのこだわりですよね。

しかもこのカバン、こんなにカジュアルな見た目をしているのに2万5,000円もします。これを安いとみるか、高いとみるかは人それぞれだと思いますが、僕は「こんだけこだわればそりゃそんくらいになるわな」と思いました。単純計算しても、1枚仕立ての同じカバン8個分の生地が使われているんですからね……。そう考えると逆に安い気さえします。

BA-03Cやmittanの製品を見ていると、「自分もこうありたいなあ」と思わされます。つまりはナナメウエに突き抜けていたいなあと。

でもそれは「こっちはナナメウエだな」と思って突き抜けるのではなく(それでも十分難しいですが)、「こっちが素敵だな、面白いな、楽しいな」と思って突き詰めていたら世間的にはナナメウエだった、みたいな方がカッコいい。そういう天然物のナナメウエでありたいと思います。

まあ、こんなこと言ってる時点でまがい物っぽいんですが……。

次回はちょっと変なズボンを紹介しようかと思います。いやはや、好きなモノ紹介するの楽しいなあ!