年の瀬も年の瀬。2018年12月30日に、大阪桜島はZepp osaka Baysideで行われた、Kizuna AI 1st Live “hello, world”に行ってきた。端的に言えばオタクのイベントなんだが、僕はこのイベントにオタクを含む非モテの夢を見た。「そもそもKizuna AIってなんじゃらほい」という人への紹介も含め、あの日あの場所で起きた出来事をレポートしたいと思う。とんでもなく長いので、3つに分けます。全編12,000字弱あります!

Kizuna AIはバーチャルYouTuberのパイオニア

世界初・世界トップのバーチャルYouTuber

Kizuna AI(以下、アイちゃん)は、2016年10月18日にメインYouTubeチャンネル「A.I.Channel」を解説し、2019年1月11日現在でチャンネル登録者数240万人以上、動画総視聴回数1億8,000万回以上を誇るYouTuberの一人だ。

しかし彼女はただのYouTuberではない。そう彼女は3Dモデルの体を持つ「バーチャルYouTuber」である。チャンネル登録者数240万人以上、動画総視聴回数1億8,000万回以上という数字は、バーチャルYouTuberとしては世界トップの数字だ。

技術としてはモーショントレースセンサーなどを使って「中の人」の動きを追い、それを3Dモデルに反映させるというものだ(と思う)。とにかく彼女はかなり人間に近い動きで、画面内を動き回る。実は僕は彼女がチャンネルを解説してから半年後、未だチャンネル登録者数が9万人だった頃に仕事で彼女の紹介をしていた。デザイナー陣が超豪華!バーチャルYouTuber・キズナアイが可愛い! という記事だ。

この記事を読んでもらえばわかるように、この記事を書いた頃の僕は正直彼女がここまでの存在感を持つようになるとは、これっぽっちも思わなかった。「まの技術だとこういうのもできるのかあ。可愛いなあ」くらいにしか思っていなかった。しかしそれからたった2年足らずで、彼女は「現実」を変えていく女の子に爆速で成長していったのだ。

彼女の誕生は「現実」を変えている

5000人。これは2018年9月時点でのバーチャルYouTuberの数だ。この数はおそらく現在も増え続けており(もちろん消えていった数も多い)、止まる所を知らない。最初はアイちゃんのサポートをしている企業に追随した企業が生んだ幾人かのバーチャルYouTuberと、個人で細々と始めた人たちだけだった。

しかし今ではかなりの数の企業が参入し、2018年7月にはあのサントリーまで専属のバーチャルYouTuberを誕生させている(燦鳥ノムさん。もちろん可愛い)。しかしアイちゃんの功績は、このようにバーチャルYouTuberのあり方を開拓し、後続のための道を切り開いただけに収まらない。

アイちゃんの存在はあるとんでもない存在を生み出したのだ。その名も「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」のねこますさんだ。

全く意味がわからないだろう。僕だってわからなかった。なんだそりゃ。この愛くるしい、いかにもオタク好きのしそうなデザインにも関わらず、この少女からは少し声の高い「おじさん」の声が流れてくる。もう中身は完全に男である。でも可愛い。ものすごく可愛い。

のじゃロリおじさんと呼ばれる彼は、今はすっかりYouTubeからフェードアウトしてしまったが、明らかに新しい世界を作り上げた男だ。説明のしようはいくらでもあるが、端的に言えば「トランスジェンダー」の世界である。

見た目は幼女、中身はおじさん。2017年2月に登場していた、3Dモデルでコミュニケーションが取れるソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」では、彼の登場以降そんな存在が無数にうまれるようになる。めちゃくちゃふざけているようだが、これはものすごいパラダイムシフトだ。

従来の現実世界では人間はどうしても見た目に縛られる。だから性的マイノリティの人たちの中には見た目を変え、社会からのレッテル貼りから逃れようとする人たちもいる。頭ではセクシャリティが違うと理解していても、性的マイノリティがマイノリティである限り、どうしても違和感が残る。

しかしアイちゃんが先鞭をつけ、のじゃロリおじさんが一気に推し進めた世界では見た目も性別も01バイナリーの組み合わせでどうにでもなる。物質的な制約から限りなく自由になる。

中にはVR空間の自分のアバター(3Dモデル)に合わせて可愛い動きをしていたおじさん(バーチャル美少女受肉おじさん)が、いつの間にかその動きが板についてきて、どんどん可愛い動きができるようになるというわけのわからない現象も生まれ始めた。つまるところ、従来の現実世界がVR空間に侵食されているのである。

VRChatにオフィスを作ってそこで仕事を進める人も出てきているから、そうなれば従来の現実世界に対して必要以上にアクセスする必要もない。知らない人からすればSF小説か何かの話に思えるかもしれないが、こんな世界観は現在進行形で急速に広まり、深まりつつある。

このようにアイちゃんの誕生は、「現実」を大きく変えようとしているのだ。

「バーチャルYouTuberのライブ」というメタ空間

2018年12月29日、30日のKizuna AI 1st Live “hello, world”は、そんなアイちゃんが自身初の単独ライブイベントとして開催したものだ。彼女はこのイベントに際して「9週連続シングル曲リリース」という試みを行い、見事9週連続でiTunesのエレクトリック部門のランキング1位を勝ち取った。この9曲とそれ以前にリリースしていた1曲を合わせた計10曲を引っさげてのイベントだった。

しかし「バーチャルYouTuberのライブ」とは一体何か。YouTuberのライブというだけでもまだ馴染みがないが、それでも人間がやるライブであればまだイメージがつく。ところがアイちゃんの場合はそこに「バーチャル」がつく。

簡単に説明すると、このライブはステージ上にとてつもなく大きなディスプレイを置き、そこにアイちゃんを投影して踊ったり、歌ったりする彼女の姿を観客が楽しむというものだ。正直僕はこれを想像して「狂気だ、なんぼなんでもパンクすぎる」と思った。

観客はディスプレイという「板」に向かってアイちゃんの名前を呼び、彼女の歌声に合わせて体を動かす。しかし言ってしまえばどこか別の部屋に「中の人」がいるわけで、アイちゃん自身がそこにいるかという問いに答えは出ない。いないと言ってしまってもいいし、いると言えないわけでもない。

観客はそんなことは重々も承知で、それでも「そこにアイちゃんはいる」「アイちゃんが生きて動いている」という約束事を暗黙のうちに守り、熱狂するのである。狂気的だし、現実への反骨という意味で限りなくパンクだ。形而上的(メタ)すぎる。

こんな頭のイカれた世界に身を浸してみたい。きっと新しい世界が見えるはずだ。実はアイちゃんのライブのチケットを予約したのはそんな出来心とも言える動機からだった。しかし結論を言えば、僕はアイちゃんのライブで彼女のパフォーマンスに嗚咽し、心底憧れるようになってしまったのである。

次回以降では「アイちゃんそのもの」「ライブの技術」「観客」「僕自身」という4つの視点から、僕がアイちゃんにヤられるまでの様子を説明していこう。

その2はこちら