SHIROBAKOというアニメを知っている人は少ないかもしれない。深夜アニメだし、内容もアニメ業界で働くヒロインたちを中心にしたお仕事ものだからだ。おそらくアニメを見る人の中でも見ていない人は多いと思う。

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出典:http://shirobako-anime.com/index.html

しかし実は業界でも高い評価を受けており、第20回アニメーション神戸「作品賞」、東京アニメアワードフェスティバル2016アニメオブザイヤー(テレビ部門)「グランプリ」、SUGOI JAPAN Award2016アニメ部門「第二位」を獲得している。ちなみにアニメーション神戸「作品賞」の第一回受賞作は『新世紀エヴァンゲリオン』、第二回は『少女革命ウテナ』、第三回は『カウボーイビバップ』、他にも『鋼の錬金術師』『巌窟王』『魔法少女まどか☆マギカ』などの作品が名を連ねる(僕の大好きな『ゆるゆり』は第十七回受賞作)。

僕はこの『SHIROBAKO』という作品に心底惚れ込んでいる。この作品をじっくり見ると、「アニメは日本に誇る文化」と言われる意味がわかりやすいビジュアルで直感的に理解できるとともに、「モノを作る」ことの苦労や作り手の情熱とこだわり、そしてクリエイターが仕事をするときに考えるべきことも厳しいくらいに勉強できる。僕も一人のライター、一人のクリエイター(ちょっとこそばゆいけれど)として、本当に学ぶことが多い。

詳しい内容はDVDを借りるなりして見てもらうとして、今日のエントリーではこの作品の第七話『ネコでリテイク』と第八話『責めてるんじゃないからね』のある場面を紹介しながら、ウェブライターの仕事について考えてみたいと思う。キャラの名前や設定、デザインなどはこちらの公式サイトで確認しながら読んでほしい。

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出典:http://shirobako-anime.com/index.html

第七話『ネコでリテイク』と第八話『責めてるんじゃないからね』はヒロインの一人でアニメーターとして働いている安原絵麻ちゃんのエピソードだ。凄まじい努力の末、業界では早い一年半という期間で原画マン(アニメの色が入る前の大元になる絵を描く人)として使ってもらえるようになった絵麻ちゃん。しかし彼女は理想のアニメーターと自分の実力の差を絶えず痛感し、「このままじゃ上手くならない」「アニメーターとしてずっと食べ続けられない」と焦りを覚えていた。そんな中、ベテランアニメーターの杉江茂さんに「上手くなるにはたくさん描く。たくさん描くには早く描く。早く描いているうちに上手くなっていく」という旨の言葉をもらう。真面目すぎる絵麻ちゃんはこの言葉を少し間違った方向に受け取ってしまい、「じゃあとにかく早く書かなきゃ」と自分を追い詰めていく。

しかし焦って描けばそれはそのまま仕事に出る。結果として絵麻ちゃんの描いた「ネコのシーン」は、作画監督(原画のクオリティ責任者)から全てリテイク(描き直し)を指示されてしまう。ショックを受けた絵麻ちゃんはどんどん深みにはまっていく……。

そんな中メインヒロインであり、絵麻の親友であり、会社の同僚でもある宮森あおいちゃんは、作画監督である瀬川美里さんに絵麻ちゃんへの厳しい指摘の真意を聞く。それは次のような内容だ。

 

「きっともう少ししたら安原さんも普通にできるようになることなんだよ。自分の後の工程のことを考えて描くなんてことは。でも今はまだわからない。わからないからできない。ちょっとの違いなんだけどね」

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この絵麻ちゃんの葛藤、瀬川さんの言葉はそのまま自分の仕事に直結するものだった。

まずは絵麻ちゃんの葛藤だが、僕も実際に「文章を書くってなんなんだろう。良い文章ってなんなんだろう」と悩んだ時期があった。でも駆け出しの、しかもクラウドソーシングのライターにはまともな技量を求められる仕事なんてまず来ない。クラウドソーシングのライターは未だに「安かろう悪かろう」で使われるところがあるし、実績がなければなおさらだ。発注する側も「文章のクオリティ」よりも「コンテンツの数」しか見ていないから、こちらがクソみたいな文章を書いてもすんなりOKを出してしまう。こちらからすれば「良い」も「悪い」も言われないから、現状維持にするかサボってクオリティを落としていく。クオリティを落としても通れば最悪クソみたいな文章しか書けなくなる。

 

ここでなんとか踏みとどまれたから今の僕がある。つまりクソみたいな文章でもOKを出すクライアントに対しても、まずは自分が出せる、自分が思う最高のクオリティのものを出す。発注量的に間に合わなければ寝る時間を削る。二徹でも三徹でもする。とにかく仕事を受けまくって書きまくった。そうしているうちにクラウドソーシングから比較的クオリティを求められる仕事を受けられるようになった。

でも絵麻ちゃんの葛藤を見ると、自分にまっすぐ問いかけられているように思う。「お前は絵麻ちゃんみたいに『理想』『上』を目指してもがいているか?」「一体どうすれば良い文章が書けるんだ?」「ああでもこうでもないと戦っているのか?」思いなやむ彼女の姿を見ていると、「作り手」「書き手」としての自分の背中にピシャリと張り手をされたような気持ちになるのである。

次に瀬川さんのセリフについてだ。クラウドソーシングは基本的に全てがウェブ上で完結する。僕は東京の企業とも仕事をしているが実際に会ったことのあるのは以前電子書籍の仕事をさせていただいた一社だけ。あとはあっても電話でのやりとりくらいだ。中には取引先と実際に打ち合わせをして書いているクラウドソーシングライターもいるようだが、僕は引っ込み思案だし対人コミュニケーションがとんでもなく苦手なので今のところはやったことがない。

だからこそ自分がライティングの仕事を請け負う前の工程、納品した後の工程をほとんど理解していない。特にライターを始めた頃はブログをやったこともないような状態だったから、オウンドメディアやコンテンツマーケティングの収益構造も知らなかったし、自分の文章がどうやってサイトのページになるのかも知らなかった。

これはアパレル店の新人アルバイトが「接客はできるけどレジも打てないし、どこから商品を仕入れているのかもわからない」のと同じだ。ただアパレル店のアルバイトなら努力すればレジの打ち方も仕入れの仕組みも教えてもらえる。しかしフリーのライターは違う。一人だから運が良くなければ黙っていても誰も教えてくれない。自分が誤字脱字を連発したり、やたらめったら参考データを引っ張り出したりした時に、後工程の人がどんな苦労をするのかなんて、ちょっとブチ切れ気味に校正者の方に指摘を受けなければわからなかった。

僕の仕事は他にも多分大勢の人が関わっている。企画の人がいて、広告をとってくる営業の人がいて、メディアを稼働させる進行役の人、コンテンツのディレクター、校正者、ライター、納品物をメディアに乗せる人、そのメディアをプログラムするエンジニア、メディアをマネタイズして新しいモノやサービスを作る人……。正直全然把握していない。でも、アニメよりは少ないにせよ、一定の人の思惑や都合が折り重なって僕の文章がメディアになるのは間違いない。その大きな流れの中に僕のライティングという仕事がある。このことを僕は忘れないようにしている。「この文章は何をどの程度伝えるべきものなのか?」と常に問いかけながら書いている。むしろそれがなければ僕は書けない。

以前某大手広告代理店と仕事をした時、電話会議というものを初めてした。その時いつも別のメディアでお世話になっている人以外に、企画の舵をとっている上長の人も同席していて、初めて自分が書く文章の目的の大元を知っている人と直接話ができた。この時実感したのが「書いてほしいことをきちんと把握している人に、直接話を聞くことほど、書くべきことを明確化する方法はない」と痛感した。なかなか今の自分では常に実行というわけにはいかないが、瀬川さんのような立場の人に「このライター使えねえ」と思われないためにも、心がけていきたい。

これはビジネスの文脈で言うと「全体最適を考えて仕事をする」と言い換えることができる。全体最適から部分最適を考え、それを実現するのだ。これは瀬川さんが言うように、わからなければ(知らなければ)絶対に考えられないし、実現できない。だから僕はこのシーンを見ると、毎回「もっと知らなきゃなあ」「知ろうとしなきゃなあ」と思わせられる。耳が痛い、が本当にタメになる。

クラウドソーシングのライターはもっとライティング以外の仕事に関わっていけなきゃいけない。それはクラウドソーシングを仲介する会社にもお願いしたいことだ。関係者がもっと歩み寄り、「作り上げたいもの」について情報・意見を交換する必要がある。もちろんそこにはかけられる時間やコストというものがあるのはわかっているつもりだ。僕も少しずつその時間とコストをかけてもらえるようなライターになっていきたいと思う。

 


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出典:http://shirobako-anime.com/story/07.html

 

ちなみにこの茶髪の女の子が宮森あおいちゃん。この後ろで髪縛ったあおいちゃん可愛すぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!(真面目な文章台無し)