私はまず彼の生活領域に突如現れることから始めた。つまり、彼が生協の購買などで立ち読みしているのを見かけたら、知らぬ顔で隣で雑誌を立ち読みする。あるいは彼が食堂で友人たちや女の子と食事をしているのを見かけたら、同じく知らん顔で隣のテーブルに座り、黙々と食事をする。
私は四年なので講義はもうないし、ましてや理学部の講義などに出るはずもない。しかし彼の姿があれば私はそのすぐ近くに座り、何をするともなくぼんやりとしていた。そうこうしているうちに、彼の様子に変化が現れ始める。眼が血走り、常にきょろきょろと辺りうかがうようになったのだ。明らかに私の存在に怯え始めた証拠である。
ここで私は第二段階に入る。彼の下宿の前にゆで卵を大量に並べる、という悪魔のような所業を四日ほど続けて行い、とうとう身も心も荒みにすさんだ五日目の彼が、朝扉から出たとたんに満々と水をたたえたドラム缶を彼めがけてたおすことで、私は彼にとどめを刺した。彼はその場で泣き出したのである。

「もう、もう許してくれよ……」
「観念したか。私から逃げられるはずもないのだ。さあ、洗いざらい吐け」
注記しておくが、私はこの男が何者なのか、何を知っているのか、それらについて何の情報も持っていない。態侘落先生が兵頭茂に向かって走れと言われたから走り、彼が逃げたから追いかけ、逃げ切られたから数々の責め苦を施したのである。しかし、兵頭は洗いざらい吐き始めた。いよいよ先生の慧眼に感服せざるを得ない。
「俺はあの夜から三日前に、サイトを見たんだ」
あの夜、と言ったという事はあの時の黒ずくめの男が兵頭であったということか。全く気付かなかった。
「サイト、というのは?」
「あんた、ほんとうに何も知らんのだな。そのサイトはパスワードがないと入れないらしいんだが……」
「どうしてお前がパスワードを知っている」
「それが、俺もよくわからないんだ。ある日メールが来て、いいバイトがあるからURLにアクセスしろって書かれてあって」
「で、アクセスしたのか」
「うん」
「馬鹿か、お前」
「うるせえ。で、アクセスしたらあの仕事を頼まれたんだ。一回一万円で。」
「確かに割のいいバイトだ」
「この話を友達にしたら、みんな知っていた。けど危なそうだからみんなやらないって言ってたよ」
「それはそうだろう。怪し過ぎる」
「でも、そのサイトには『貼り屋』専用の掲示板があって、俺以外にも何人かの人間が書き込んでいるんだ。それで、仕事を請け負ったのさ」
貼り屋とはおそらく、段ボール箱に手紙を貼り付ける人間のことだろう。
「そのサイト、今見られるのか」
「いや、俺はあの晩しくじったから、もうアクセス制限の対象になっている」
「……そうか、わかった」
私はそう言って彼を解放してやった。
「今まで済まなかった。今日からは平穏に暮らしてくれ」
私はとりあえず、態侘落先生にもう一度会おうと思った。

一月十四日.

私は兵頭茂の下宿を後にして、大学へ向かった。態侘落先生が何処の学部で何を専門としているかは見当もつかなかったが、手始めに私のゼミの教授に尋ねることにした。研究室のドアをノックすると、か細い声で返事が返ってきた。失礼します、と言って入室する。
「あれ、ど、どうしたの」
「先生に聞きたいことがありまして」
「え、あ、ん、なになに」
私のゼミの教授、田村先生は博識で発想力もあり、世の中に認められる知性だと常日頃から思っている。しかし、二年来の関係である私にもいまだに挙動不審のままという極度の人見知りである。それに加え、ちょっとした宴会の乾杯の音頭をとるのでさえ、
「何て言えばいいの」
と私に小声で相談するほど人前で話すのが苦手な、極度の引っ込み思案でもある。おかげで学会の発表ではロクに話すこともできず、
「僕が書いたものを発表するなんておこがましい」
と言って論文を発表することもしない。そんなことだからいつまでたっても浮かばれないのである。
「先生は、態侘落先生ってご存知ですか」
「て、態侘落先生? う、うーん、聞いたことはあるけれど」
「何処の学部なのですか?」
「が、学部は、ぼ、僕と同じだよ、確か。で、でも見たことは、な、ないねえ」
「そうですか……」
「す、角田先生なら知っているかもしれない。あ、あの人、ここ長いから」
「わかりました、聞いてみます」
「うん、うん」
「じゃあ、失礼します」
「うん、うん」

私はその足で角田先生の研究室に向かう。角田先生は哲学コースの重鎮で、何でも二十年以上はこの大学にいるという噂の大先生である。文章として発表することをあまり好まない角田先生が二年前に初の著書を刊行された。私は当時哲学に大いに興味を持って様々の書物を読んでいたので、角田先生と少しだけ親交があったという事も手伝って、六三〇〇円するその書物を購入したのだが、難解すぎてわずか一二頁で膝を折った事を覚えている。私が文学やその周辺の文化史などに興味を移してから自然疎遠になっていたが、角田ゼミの友人に聞くと、今なおあの頃と変わらぬ異彩を放っているそうである。
扉をノックすると、針のように鋭い返事が返ってきた。
「し、失礼します」
「君か。久しぶりだ。どうした」
「おききしたいことがありまして」
「なに」
「角田先生は、態侘落先生をご存知でしょうか」
私がそう聞くと、それまでしかつめらしい顔をしていた先生が破顔した。
「君、態侘落先生に会ったのか」
「はい」
「どうだった」
「どうと言いますか……変わったお人で、はじめは人間ではなく魍魎の類かと思ったくらいです」
「はっはっは、そうかそうか。お変わりなしか」
角田先生が笑ったのを初めて見たように思う。
「先生は、態侘落先生をよく御存じなのですか」
「それはもう、大変お世話になった。あの方は今のところ、私が生で見た最初で最後の哲学者だ」
「え、哲学の先生なのですか」
「著作も論文も全くと言っていいほどないがね。前に発表したのは四〇年以上前ではないかな」
「それって……」
「そうだ、この大学に採用が決まったときの院生時代の論文以来かいていない」
「へ、へえ……。」
「で、態侘落先生がどうした」
「その、お会いしたときに少しお世話になりまして。お礼を申し上げたくて」
「もう一度会いたい、と」
「ええ」
「それは極めて困難だな」
「なぜでしょう」
「先生は大抵色々なところを転々としながら、寝床を探しておられる」
「ええ、私がお会いした時もそうでした」
「それは本当に、僥倖ともいうべき幸運なのだ。先生は同じ所では二度と眠られない」
「ということは」
「そう、何処にいるかわからない。先生が研究室に帰って来られなくなってから幾年月、という程だ」

「なぜ帰って来られないのですか」
「研究室内に先生が寝たことがないところがなくなったからだ」
「なるほど……わかりました」
「すまない、力になれなくて」
「いえ、次の僥倖を粛々と待つことにします」
「そうだな。先生のお話ならいつでもしてあげるから、また来なさい」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
私が扉を閉じたあと、角田先生が、なんだかやる気が出てきたぞ、と大きな声で言っているのが聞こえた。角田先生はよほど態侘落先生を尊敬しているらしい。

とにもかくにもこちらから会いに行くことができないとなれば、再び会えるのを待つしかない。私は別方面から手紙の件についての調査を進めることにした。あと数日待てばある人間が帰ってくる。彼に会えば何かわかるだろう。私はそう合点して、ひとまず帰路につくことにした。

家に帰り、時計を見るといつの間にやら昼飯時である。炊き込みご飯が余っていたことを思い出し、それをレンジにかけて食べようかとも思ったが、三合分も一人で食べると同じ味は飽きてくる。そこで私はショウガとニンニク、ネギやらなんやらを付けたして、炊き込みご飯炒飯なるものをつくることにした。これの美味さは立証済みである。美味くて早くて冷蔵庫の掃除にもなる。一石三鳥とはこのことだ。自らの錬金術的発想ににんまりとして私は手早く炒飯を作り、それを食した。満腹になったところでぼんやりと何を考えるともなく考えていると、そう言えばここ一週間とりつかれたように兵頭茂を追いまわしていたので、全く岸田に顔を見せていないことに気付いた。
「そう言えば、決着もついておらんな」
決着、というのは一週間前に始まった森野と私の格闘ゲーム対決のことである。私と森野の格闘ゲームの技術レベルが気持ちのいい位互角で、何度やってもギリギリの勝負になるのでこれまで様々なゲームで死闘を繰り広げてきたのであるが、また新しいゲームにおいて一週間前に両雄相まみえたのだ。その時は私が僅差で勝利し、深夜二時まで及んだ戦いは幕を引いたのだが、惜しくも敗北を喫した森野が別れ際にこう言ったのである。
「三番勝負やから」
私はその挑戦状に対して不敵な笑みでこたえたのだ。それから一週間、おそらく彼は死に物狂いで修業を積んでいたに違いない。そのような彼相手に、一週間奇行に没頭していた私がかなうのかと言われると、自信を持って答えられるわけではない。わけではないが、ここで逃げては男がすたる、逃げるわけにはいかないのである。
「むんっ」
と勇ましい声をあげて私は立ち上がり、岸田へと向かった。

簡単に言えば、その時の私の威勢は、間の悪いものだった。
「いざ勝負つかまつら―ん」
と森野の家の扉をあけると、森野と里美ちゃんが二人だったのである。いや、ふたりっきりだったのである。
「草さん、久しぶり。やるか」
と森野は一点の曇りもなくいつも通り。
「草さん、あけましておめでとうございます」
と里美ちゃんもいつもどおりである。しかし、私だけは何処をどう考えても自分が間の悪い男であることを自覚せずにはいられなかった。なにしろ、ふたりっきりなのである。だからと言って、
「お邪魔しました」
などとその場から撤退するわけにもいかない。あまりにもそれは無粋というものである。
「おう、おめでとう」
などと平静を装い、私は森野宅に腰を下ろした。
「草さん、勝ち逃げしたんかと思ってたわ」
「そんなことするわけがない。少し野暮な用があったのだ」
「ふーん。まあ、ええわ」
そういって森野はゲーム機の電源を入れた。この森野がここ一年ほど当たり前のように使っているゲーム機は、あたかも彼の持ち物のように見えるが、実はそうではない。かといってかくいう私のものでもない。私のゲーム機はゲーム以外の目的のために我が家の棚に鎮座している。これは、郷田の所属する学生団体のものなのである。団体が使用する部室のような所にずっと誰に使われるでもなく放置されていたゲーム機を、郷田曰く、
「救ってやった」
のである。郷田のその多少我田引水気味の救助活動によってこのゲーム機はその本分全うできない屈辱的状況から抜け出し、此処森野宅において目下フル稼働中である。

「この何週間か、里美ちゃんは何をしていたのだ」
「いろんな人に会いましたねえ」
「いろんな人?」
「ええ、地元の友達とか、高校の先生とか」
「どうだった」
「岸田があってよかったな、と思いました」
「ほお」
私と森野は思い思いのキャラクターを選んだ。
「他の大学に行った友達は、なかなか岸田みたいな関係は作れていないみたいでした」
「まあ、ここのような関係はなかなかあるまい」
「郷田が、いい意味で変わってるからなあ」
と言いながら森野は私に必殺技を決めてくる。
「あれほど自分の家で宴会だの食事会だの開く人間はなかなかいない」
「そうですよね、あと千沙さんの力もあります」
「ああ、あの変態球形哺乳類か……てえいっ」
私の必殺技が森野に決まる。
「やつのフランクさはどんな精神的障壁もたたき壊すからな」
「そうなんですよ、尊敬します」

千沙がオーストラリアに行く前、私たちは四日間連続で飲み会を開いた。その時はちょうど四月の末だったので、多くの新入生が岸田に出入りする季節でもあった。故に、その千沙の送別会と称した飲み会は、千沙の全く知らない人間も多くやって来ていたのだが、彼女は全く気にしていないようだった。
彼女は規格外の酒乱怪獣たちに囲まれて萎縮してしまっている新入生に、なんともやわらかなアプローチを図り、見事仲良くなることに成功してしまったのである。彼女は変態だが、素敵な人間なのだ。
そうこうしているうちに森野のコンボが決まり、私のキャラと心は打ちのめされた。
「よっしゃあ」
ギリギリの勝負を制した森野はこの上なく喜んでいる。そんな森野を里美ちゃんがなんだか嬉しそうに観察している。私はこの上なく気まずい。
「あ、そうや、今日の晩飯やけど」
「うむ」
「里美ちゃんと郷田らとで鍋でもしよういうてるんやけど、草さんも食うやろ?」
「そうだな、頂こうかな」
「そしたら、もう五時やし、そろそろ買い出し行こうか」
「キムチ鍋にしましょう」
「それはいい」
という事で私たちは外に出たのだが、私はその時妙案を思いついた。流石と言わねばなるまい。
「すまない、少し調べ物があるのを忘れていた。どうしても今日中にやっておきたいのだ」
つまり、森野と里美ちゃんのふたりっきりを邪魔した償いに、ふたりっきりで買い物に行ってもらおうという計画である。
「あ、そうなん。そしたら二人で行くわ」
「お勉強、頑張ってください」
「うむ。よろしく頼む」
そう言って私は意気軒高に我が家への道を歩いた。我ながら素晴らしい演技力であった。これを機に、近頃疎かにしていた部屋の掃除をしてしまおう、と決めた。今の下宿を出る日もさほど遠いわけでもない。

一時間ほどして森野から連絡があったので、私は岸田に向かった。今日は森野がどうしても見たいテレビがあるというので、テレビのない郷田宅ではなく例の地上デジタル放送対応の液晶テレビのある森野の家に集まる。ということだったので、私は森野の家の扉を開いた。森野の家は玄関を開いてすぐの所がいわゆるリビングで、そこにこたつやテレビ、暖房器具などが置いてある。そしてその奥が台所で、さらに奥まった所に無理やり取り付けたと思しいユニットバスがある。そして今、台所では里美ちゃんと森野がなにやら仲睦まじ気に会話を交わしながら夕食の準備をしている。二人で買い物に行き、二人で食事の準備をするなどもはや夫婦ではあるまいか。
私は何とも羨ましい二人の光景に少し嫉妬はしたものの、やはり里美ちゃんという盟友の恋がうまくいっているのは何にもまして嬉しいものである。私は二人に声をかけることはせず、静かに机や床を片づけることにする。

「森野さん、ネギは斜めに切るんですよ」
「え、そうなん。いっつも適当にやっとったわ」
「まあ、なんで斜めに切るかは知らないですけどね」
「でもなんか、たしかにうまそうやわ、ありがとう」
「いえいえ」
などという他愛もない、しかし事情を知る私からはなんだか妙に浮かれた気分になってしまう会話を聞きながら、私はてきぱきと部屋を片付けていく。心も体もたくましい森野は、思いのほか身辺を片づけるという事をしない。汚れているわけではないが、散らかり方はなかなかのもので、なぜこんなところに箸がというようなところに一本だけ転がっていることもままある。
これは郷田に関してもそうだが、森野は箸が一本なくなったところで別の箸を使えばよい、別の箸の片方がなくなればむしろしめたもの、その前になくなった箸と組み合わせて使えば万事がうまくいく、という思考回路を持っている。そのために炬燵の敷物の下から種類の違う箸が一本ずつ出てきたりするのである。部屋の掃除をしないことに関しては自分も人のことをとやかく云える身分でないのは重々承知の助だが、この箸の件に関しては私はどうにも我慢のならない気質である。岸田でいざ食事という時に、
「ああ、草さん、その箸、一本なくしたやつやわ」
などと言われれば、
「先に食べておいてくれ」
と言ってまで、その孤独にうちふるえている箸たちをどうしても出会わせてやりたくて、私は必死の捜索を開始する。まこと慈悲深き所業と言わねばなるまい。断じて片方だけは気持ち悪いから、などという感覚的な目的で動いているわけではない。念のため。

そんなこんなで片割れの箸を三本ほど見つけた頃に、森野が私に気がついた。
「草さん、おるなら言うてや」
「すまない」
「びっくりしたわ、なんかもぞもぞ動いとるから何者かとおもたやんか」
「もぞもぞとは失敬な。ほれ、箸が三本もあったぞ」
「お、ありがとう。道理でなんか最近箸少なくなったなあ思とってん」
「どうしてそれで探さんのだ」
「え、何となくかな」
フハハハハと素敵に笑って、彼は再び調理に戻った。里美ちゃんはといえば黙々と人参の皮をむいている。
六時半ごろになってデートに行っていたという郷田と香織嬢が森野宅にやってきた。
「何処に行っていたのだ」
「海を見に行ってたの」
「めっちゃ寒かったわあ」
「貴様はよくその図体で寒いなどと言うな」
「草さん、俺も人間なんですよ」
「それは知らなかった、考えを改めるとしよう」
「よろしくたのんます」
「森野、ビール買ってきたよ」
「お、香織さん、ありがとう」
奥から出てきた森野が言う。
「あら、里美ちゃん、もう来てたんだ」
「はい、お久しぶりです」
森野の後ろから里美ちゃんが顔を出す。
「今日キムチ鍋やから」
「お、それならビールにぴったりだね」
「それは素晴らしい、さすが香織嬢」
森野は鍋の仕上げをし、郷田と香織嬢は隣室の郷田宅から食器類を持ってくる(森野の家の食器だけでは五人分に足りな)、私は掃除の仕上げに机の上を濡れた布巾で拭き、そのあとのから拭きも済ませる、里美ちゃんは調理で出た生ごみなどの処理をする。いつもの要領で各々が仕事を見つけ、七時前には皆が鍋を囲んで炬燵に足を入れていた。

「お腹すいたわ―」
「早く食いたいものだ」
「まあまあ、その前に乾杯でしょ。里美ちゃんはどうする?」
「ビール、飲んでみます」
「え、どないしたん」
里美ちゃんはいつもチューハイか梅酒と相場が決まっているのである。その彼女がビールに手をつけると言ったので、森野が少し驚いたように言う。
「なんだかいつもチューハイとか梅酒なので、せっかくいろんなお酒があるのに、それ以外が美味しく感じないなんてもったいないなと思って」
「確かにそうやけど、無理しなや」
「はい」
森野が心配そうに彼女にそう言ったので、少し嬉しそうに里美ちゃんは返事をした。
全員のコップにビールが注がれ、夕食が始まった。
皆の腹が満杯になり、しかしアルコールへの欲求がより一層高まったころ、時計の針は十一時を指していた。

「酒が、足りん」
私が言う。
「俺もそう思う」
森野が言う。
「無論よ」
香織嬢も同調する。
「弘毅呼ぶか」
郷田がこの上ない提案をした。彼に買ってきてもらうのである。当然金は出すが、この寒い中誰かが買いに行くという禅寺の修行僧かというほどの苦行を免れるというのはとても大きい。全会一致で郷田の提案が可決され、それは即実行に移された。
「もしもし、弘毅。そう俺。今から岸田おいでや。あ、そうそう、酒買ってきてくれん?うん、なんでもいいから。はい、おねがーい」
そう言って郷田が電話を切る。
「来るって」

満足そうに一同は頷く。