2020年11日〜13日に開催されていたMITTANを主宰する合同会社スレッドルーツのオープンアトリエに行ってきました。
僕が参加したのは最終日の13日。連休が終わる日ということもあって、若干客足は少なかったものの、MITTAN好きで賑わう空間を堪能することができました。
今回は、たっぷり3時間ほど同社のアトリエに居座った結果、考えたことをレポートしたいと思います。
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合同会社スレッドルーツ オープンアトリエに行ってきました!
京都市営地下鉄今出川駅から歩いて20分程度、周辺には西陣織会館や織物に関する会社が並ぶ地域に、合同会社スレッドルーツはあります。
扉をくぐると、中は大きく開けており、MITTANのアイテムや、デザイナーの三谷さんたちが買い付けてきた布などを手に取る人たちで大賑わい。
その中に、品物やその背景についての説明をする三谷さんをはじめとする社員さんたちの姿が見えました。
奥には畳のスペースがあり、MITTANのデザインソースとなる少数民族についての本や、同社所蔵の世界各地の古布が。
思わず「まるで夢のような場所だ」と、布オタクの心を震わせました。
幅広すぎる訪問客の年齢層
三谷さんに挨拶を済ませ、一通り品物を見たあと、社員さんに出していただいたお茶とお菓子をつまみながら、僕は畳の上でイベントの様子をぼんやりと眺めていました。
と、その時、あることに気づいたのです。それは「訪問客の年齢層、幅広すぎない?」ということでした。
あくまで僕の主観ですが、多くのブランドではファンの年齢層がある程度限定されます。それはブランドがターゲットを絞ってプロモーションをしたり、アイテムを作ったりするからです。
でも合同会社スレッドルーツのオープンアトリエに来ている人たちは、僕くらいの30歳程度の人もいれば、大学生くらいの若い女の子もいるし、僕の父やそれよりも高齢の人もいて、みんな楽しそうに品物を手に取ったり、話を聞いたりしているんです。
MITTANのアイテムは、はっきり言って安くはありません。
生産背景を聞くと「そこまでやってこの値段は安いな」と思えるのですが、服に全く興味のない人が「ちょっと買ってみるか」と言えるような価格帯でもありません。
でも老若男女問わず、こんなにも多種多様なファンがいる。「なんなんだろう……この光景は?」と不思議な感覚になりました。
MITTANは「ファッション」ではなく「民藝」だ

途中、あまりにも長くいるものだから「鈴木さん、めっちゃ溶け込んでますね(笑)なんの違和感もないですよ(笑)」と言う三谷さんに撮ってもらった写真
畳の上で三谷さんから勧めてもらった本を読んだり、同じく三谷さんに勧められたインドのカッチ地方の布を買うかどうか悩んだり、MITTANに出会った時から憧れていた布を買うかどうか悩んだりしながら、僕は不思議な感覚の答えを探しました。
そこで行き着いた答えが、MITTANが「ファッション」ではなく「民藝」だから、というものでした。
『世界大百科事典』によれば、民芸とは「民衆の工芸品の略語。民衆の間でつくられた日常の生活用具のうち、機能的で健康な美しさをもつ工芸品とその制作活動」です。
ここでMITTANが掲げるブランドコンセプトを引用してみましょう。
MITTANは世界に遺る衣服や生地にまつわる
歴史を元に、現代の民族服を提案しています。平面的な構造を再解釈し、天然素材が持つ
本来の機能性と組み合わせることで、
一過性の時代の流れにとらわれることの無い、
永く続く服を目指しています。引用:MTTAN
ブランドコンセプトを見るだけでも、MITTANが民藝を出発点としたブランドだということがわかりますが、アイテムに視点を移しても、そのコンセプトがしっかりと貫かれています。
例えば、MITTAN カディロング羽織 −「布をまとう」を追求した服−で紹介したJK-15Cは衣服としての美しさを持ちながら、動きやすさや軽さ、丈夫さ、驚くほどの通気性や、適度な保温性も兼ね備えており、まさに「機能的で健康な美しさをもつ」道具としての条件を満たしている一着です。
また、民藝品というのは、親から子、子から孫、孫からひ孫へというように、何代にもわたって受け継がれていくものも少なくありません。
もちろん壊れることもありますが、その際はきちんと直して使います。
MITTANは公式的に、品物の修繕を受け付けています。以下は公式サイトからの引用です。
MITTANの服は1シーズンではなく、長く、
生地が擦り切れそうになっても尚着続ける事を
前提にデザインされています。そこで長くご愛用いただく為に
修繕を承っています。お買い上げいただいた時期は問いません。
修繕内容をお客様と相談の後、
スタッフが中心となって社内で繕います。
また染め直しも同様に承っております。引用:MTTAN
こうした姿勢もまた、MITTANが民藝であるということの証と言えると思います。
なぜ「民藝」は老若男女に受け入れられるのか?
ではなぜMITTANが民藝だから、老若男女に受け入れられるのでしょうか。それは民藝がそもそも、老若男女に受け入れられるものだからです。
ファッションが「流行」であり、「変化」であるとすれば、民藝は「実用」であり、「不変」だと言えるのかもしれません。
「惹かれるファッション」には、明確な年代ごとの違いが出ます。
なぜならたいていの人は、最もファッションに興味のある若い頃に流行ったり、好きだったりしたファッションが大人になっても好きだからです。
だから20代の若者が好きなファッションに、30代や40代の人が惹かれることは稀ですし、60代の人が好きなファッションに、20代や30代の人が惹かれることもあまりありません。
一方で民藝に世代はありません。
親から子、子から孫、孫からひ孫へ受け継がれていくものだからです。
民藝品の美しさを理解するには、年齢を重ねる必要があるかもしれません。しかし民藝の本質は実用にあるので、美しさを理解する前に、道具としての完成度に魅了されるでしょう。
だから若い人も、年齢を重ねた人も、MITTANに惹かれるのではないか……。
そこまで答えが出たところで、僕は時計を見ました。するとなんと、閉会時間の18時目前!
悩んでいたカッチ地方の布、憧れていた朝焼けみたいな青の布、その他こまごまとしたものを手に社員さんに「これ、全部買います」と伝え、僕は帰り仕度をしたのでした(結局買う)。
「伝える」の実践の場から学び続けたい
僕たちはもっと、服についてちゃんと語るべきなんだと思う。でも長々と説明したように、僕は近頃四六時中「服やファッションについて伝えるって、どういうことなんだろう」と考え続けています。
今回、接客や対応の合間に三谷さんが僕とお話する時間をとっていただいたおかげで、三谷さんが仕事を通じて何をしていきたいと考えているのかが、垣間見えたように思います。
と同時に、「ああ、これが、三谷さんにとっての『伝える』の形の一つなのか」とも思いました。服についての伝え方は、僕が思っていたようなやり方だけじゃないんだ、と気付かされたのです。
MITTANのこと、三谷さんのこと、合同会社スレッドルーツの社員さんのことをもっともっと知りたいと思いましたし、「伝える」の実践の場として対話や観察の中から学び続けたいと思ったイベントでした。
三谷さんいわく、今年からは「伝える場として、年2回くらいで開催できたらいいなあ、と思っていて。予定は未定ですけど」とのこと。
次回お伺いした時に、今回とは違う景色が見られるよう、「服を伝える」についてたくさん考えて、たくさん動きたいと思います。