文章を書いたり、筋トレしたり、自転車漕いだり、山登ったり、基本はひとり。

岸田アパート物語

『岸田アパート物語』2号室

私が貴重品の移転作業をしながら、昔の甘酸っぱい思い出に鼻先をツンとさせていると、香織嬢がスーパーから帰ってきた。 「お、いいにおいだ」 クンクンと、その端正な鼻先で森野の料理のにおいをかぐと、香織嬢は満足げに郷田の部屋に戻っていった。両手には凄まじい量のアルコールがぶら下がってい…

『岸田アパート物語』1号室

一一月三〇日. 宙に舞ったのは皿だけではない。無論、そのうえに載っていた出し巻き卵も一回転ひねりを加えて見事頭部から着地した。憎らしいことにプラスチック製の皿は、さも私を嘲笑するかのようにふてぶてしくアスファルトに横たわっている。この予期せぬ転倒について、私には何ら責任などないと…