文章を書いたり、筋トレしたり、自転車漕いだり、山登ったり、基本はひとり。

最新記事

『岸田アパート物語』9号室

私は無性に腹が立ち、そのあとカツカレーのLをたいらげた。途中喉に詰まって死にそうになったが、こんなところで死んでなるものかと水で流しこみ、再びかきこんだ。それでもまだ屹立した腹がおさまらない。私は肩を怒らせて食堂を出る。 食堂のある建物の前では、真冬だというのにダンスサークルの学…

『岸田アパート物語』8号室

それから三〇分ほどして、過ぎ去った十一時よりも零時が近くなった頃、里美ちゃんが、 「明日一限あるので帰ります」 と言ったので、当然のごとく一番年少の森野が送っていくことになった。今日この二人は殆んど半日一緒にいたのではないだろうか、喜ばしいことである。里美ちゃんは別れのあいさつを…

『岸田アパート物語』7号室

私はまず彼の生活領域に突如現れることから始めた。つまり、彼が生協の購買などで立ち読みしているのを見かけたら、知らぬ顔で隣で雑誌を立ち読みする。あるいは彼が食堂で友人たちや女の子と食事をしているのを見かけたら、同じく知らん顔で隣のテーブルに座り、黙々と食事をする。 私は四年なので講…

『岸田アパート物語』6号室

私はその時、ひょっとして奴は森の賢者か何かかと思ったものである。とにかく彼の言葉は私の腑にストン、という気持ちのよい音をたてて落ちた。それからしばらく彼の言葉をかみしめるように、小一時間ほど河原に一人坐していた。 それからしばらくして後に、私は自宅付近にて森の賢者と再会するのだが…

『岸田アパート物語』5号室

私がそう口にした途端、香織嬢は我が意を得たりといわんばかりに口角をあげ、私の胸倉をつかんでこう言った。 「上等だ」 私は様子のおかしい里美ちゃんを森野が介抱しているのを見届けて、負け戦の場へと身を翻した。相手は底なし沼の香織嬢である。死なばもろとも、という覚悟すら持ってはならぬ。…

『岸田アパート物語』4号室

「どうした」 「草さん、飯食った?」 「いや、まだだが」 「里美ちゃんが、カレー作りすぎたから岸田で食べませんか、やって」 「頂こう」 「おっけー、米持って来てくれる」 「うむ、構わん。何合あればいい?」 「六合ぐらいいると思う」 「炊飯器はよいか」 「それは大丈夫。郷田のんと俺…

『岸田アパート物語』3号室

「にしても、森野の料理はほんとに美味しいわね」 そう言ったのは香織嬢である。 「どうして彼女ができないんだろう」 これは岸田定番の話題である。森野は顔よし、スタイルよし、頭もよければ性格もいい、料理も美味いしスポーツもできる。服に気を使わないところが玉にキズだが、本当に素晴らしい…

『岸田アパート物語』2号室

私が貴重品の移転作業をしながら、昔の甘酸っぱい思い出に鼻先をツンとさせていると、香織嬢がスーパーから帰ってきた。 「お、いいにおいだ」 クンクンと、その端正な鼻先で森野の料理のにおいをかぐと、香織嬢は満足げに郷田の部屋に戻っていった。両手には凄まじい量のアルコールがぶら下がってい…

『岸田アパート物語』1号室

一一月三〇日. 宙に舞ったのは皿だけではない。無論、そのうえに載っていた出し巻き卵も一回転ひねりを加えて見事頭部から着地した。憎らしいことにプラスチック製の皿は、さも私を嘲笑するかのようにふてぶてしくアスファルトに横たわっている。この予期せぬ転倒について、私には何ら責任などないと…

2017年は「本を作るお手伝い」をさせてもらえるようになった年。

2017年が終わる。今年もなんとか生き延びた。何があったかとか、何を思ったかとかは忘れている部分も多いのだけれど、少なくとも仕事においては躍進の年だったと言えると思う。 「こたつライター」、こたつを出る 僕は基本的にいわゆる「こたつライター」だ。こたつライターというのは、こたつに…